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特集「運慶の後継者たち―康円と善派を中心に」

彫刻担当の西木です。

運慶・・・といえば、みなさん「あ、運慶展か!」と期待されるかもしれません。残念ながらちがいます。

ここでご紹介したいのは、特別展より一足先に始まった特集「運慶の後継者たち―康円と善派を中心に」(2017年8月29日(火)~12月3日(日))です。運慶の作品は展示していませんが、運慶の孫世代に活躍した仏師の作品をご紹介する企画です。

本館14室の特集展示の様子
本館14室の特集展示の様子

仏師運慶(?~1223)は、鎌倉時代を代表する仏像作家です。大勢の弟子を抱えて、工房を経営していました。そのリアリティに満ちた表現と、型にはまらず、生き生きとした躍動感あふれる造形で、人びとを魅了しました。

運慶は子どもにも恵まれたようで、少なくとも仏師になった息子が6人、娘もいたことが分かっています。そのうち、四男である康勝の息子と伝えられるのが、康円(1207~?)です。代表作は、当館所蔵の文殊菩薩騎獅像および侍者立像ですが、写実的な表現にもとづきながら、とりわけ人物描写が明快になり、その性格まで分かりやすく表わしていることが特徴です。

 文殊菩薩騎獅像および侍者立像 
重要文化財 文殊菩薩騎獅像および侍者立像 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)

いつもは5体セットで展示するため、細かな部分を比較するのはむずかしいのですが、今回はそれぞれケース内でご覧いただけるため、じっくり見比べることも可能です。

 大聖老人立像、于闐王立像
写真左:重要文化財 大聖老人立像(文殊菩薩騎獅像および侍者立像のうち) 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)
写真右:
重要文化財 于闐王立像(文殊菩薩騎獅像および侍者立像のうち) 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)

善財童子立像、仏陀波利三蔵立像
写真左:重要文化財 善財童子立(文殊菩薩騎獅像および侍者立像のうち) 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)
写真右:
重要文化財 仏陀波利三蔵立像(文殊菩薩騎獅像および侍者立像のうち) 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)

また、文殊菩薩の乗る獅子や光背まで制作当時のまま残ることも大変貴重です。

獅子像
重要文化財 獅子像(文殊菩薩騎獅像および侍者立像のうち) 康円作 興福寺伝来 鎌倉時代・文永10年(1273)

光背および蓮華座
文殊菩薩騎獅像の光背および蓮華座

こちらも、特別にそれぞれ単独でご覧いただけるようにしました。透かし彫りの美しい光背も、恐ろしいなかにも愛嬌のある獅子も、とても近くでご覧いただけます。この機会をぜひお見逃しなく。


また、康円より少し先輩の世代として活躍した仏師、善円(1197~1258)も注目すべき存在です。同じく「円」という漢字がつきますが、「円」の字を共有する円派と呼ばれる仏師集団とは関係ないようで、奈良を中心に活躍したことが遺品から知られています。ちなみに、善円の息子は善春という名前で、仏師として活躍しているため、彼らを「善派」とも呼んでいます。ただ、善円は後に善慶と改名しているので、運慶や息子たちが所属した仏師集団である慶派に後から加わったのかもしれません。

奈良・薬師寺からご寄託いただいている地蔵菩薩立像はその代表作で、目尻を上げた涼やかな顔立ちや、くっきり刻まれた衣の襞がその特色といえます。

地蔵菩薩立像および地蔵菩薩立像(頭部)  
重要文化財 地蔵菩薩立像 善円作 鎌倉時代・延応2年(1240) 奈良・薬師寺蔵(写真左)とその頭部(写真右)


作者の名前は伝わりませんが、菩薩立像も顔立ちが似ていることから、近い関係にあった仏師の作と考えられています。

菩薩立像とその頭部
重要文化財 菩薩立像 鎌倉時代・13世紀(写真左)とその頭部(写真右)

ご注目いただきたいのは、唇です。

菩薩立像(面部)
菩薩立像(面部)

鎌倉時代から盛んに行なわれるようになった技法の一つに、玉眼が挙げられますが、これを唇や爪、歯などに応用するようになるのは、運慶の息子世代あたりからのようです。そもそも玉眼とは、眼球を薄く削った水晶板で表わす技法であり、潤いのある目を表現するのに適していますが、玉眼自体は、運慶より前から使われ始めています。

運慶の作品には玉眼以外に水晶を用いたものが残されていないため、運慶がこれを見たらどう思うのか分かりませんが、モデルを前にしたかのような現実感の強い仏像を手がけた運慶のこと、積極的に取り入れていたかもしれません。運慶をはじめ、鎌倉時代以降の仏像に強く求められた写実表現は、「この世に仏の姿を見たい」という人びとの願いが反映されたとも考えられています。

残念ながら、運慶のスタイルは容易に真似できないものであったため、息子や孫は、偉大な父や祖父の姿を気にしながらも、自分なりの仏像造りに励んだに違いありません。

運慶の後継者である、孫たちの活躍をご覧ください。

特別展「運慶」(9月26日~11月26日)とあわせてお楽しみいただければ幸いです。

運慶展のチラシ画像
 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開2017年度の特別展

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posted by 西木政統(貸与特別観覧室研究員) at 2017年09月07日 (木)

 

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