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さよなら「茶の湯」オールスターズ

青葉が本当に気持ちのよい季節になりました。
日差しも少し強くなって、雨も長くなって、そろそろ梅雨が来るのかなと感じます。

そして特別展「茶の湯」も残すところわずかとなりました。

展覧会の企画は3年前ほどから本格的にスタートして、
そのあいだ私はずーっと平成館展示室の図面とにらめっこの日々でした。
5、60枚は図面を引いたでしょうか…。
これだけたくさんのお茶碗、そして茶入、茶杓や香合といったとても小さな工芸作品が特別展会場である平成館にならぶ機会は珍しく、その形、大きさから照明を当てるのも書画や彫刻とは異なる細やかな工夫が必要です。

とりわけやきもの専門の研究員として、茶の湯のやきものについて
ぜひお伝えしたかったのは、日本ほどやきものを身近に感じている国は他にないということです。

ガラス質のなめらかな釉面の中国のうつわ。
轆轤目が粗く残るざらざらとした朝鮮半島のうつわ。
そして縦に横にヘラによって削られた日本のうつわ。
先人たちは手にとってそうした違いを受け止めて、大切に伝えてきたということ、これだけ個性あふれる名品が集まる機会はめったにないということ、ぜひその素晴らしさをこの展示で再現したいと思いで準備をしてきました。


重要文化財 油滴天目
建窯 南宋時代・12~13世紀 九州国立博物館蔵

古田織部、松平不昧が所持した油滴天目。こちらも大阪東洋陶磁美術館所蔵の国宝の「油滴天目」に負けないくらい魅力たっぷりに輝いています。


国宝 大井戸茶碗 喜左衛門井戸
朝鮮時代・16世紀 京都・孤篷庵蔵
名もなき陶工がスピードにのって轆轤を挽きあげ、ざくざくと削って整える様子が目に浮かぶよう。圧倒的な存在感を放って佇む孤高な姿に心打たれます。


国宝 志野茶碗 銘 卯花墻
美濃 安土桃山~江戸時代・16~17世紀 東京・三井記念美術館蔵
ほんのりと赤みを帯びた穏やかな火色で、一見優しい雰囲気を漂わせる名碗「卯花墻」にはじつは胴部に大胆に箆目が入り、力強い造形で迫ってきます。

そこで今回、光源を展示台の下に設けた特別な照明を作り、茶碗の側面や高台部分をより良く観ていただけるようにしました。
(協力:デザインオフィスイオ、大光電機、株式会社マルモ)


楽茶碗の展示ケース
(撮影:横山研究員)


作品は重要文化財「黒楽茶碗 銘 ムキ栗」(文化庁蔵)。
360度ぐるりと、ちょっと腰を落として目線の高さを変えてみたりして、楽茶碗の薬の変化や箆削りなど、いろいろな表情を見つけることができます。


重要文化財 黒楽茶碗 銘 俊寛
長次郎 安土桃山・16世紀 東京・三井記念美術館蔵

柔らかい光が当たった胴から裾にかけて、ぐっと横に箆削りが入っているのをみることができます。口が内向し、持つ手にぴったりと収まる絶妙なかたち。
茶の湯が生み出した唯一無二のやきもの、楽茶碗の名品です。



茶碗のみならず、どれもそれぞれに魅力たっぷりの「茶の湯」オールスターズ。
こんな名品が一堂に会する機会は、もうしばらく無いだろう…と、
企画者の一人として展示替えのたびにちょっと寂しい気持ちがしておりますが、素晴らしい作品たちと向き合える時間を大切にしようと心新たにする日々です。

カテゴリ:研究員のイチオシ2017年度の特別展

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posted by 三笠景子(平常展調整室主任研究員) at 2017年05月28日 (日)

 

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