本館 特別1室
2009年1月2日(金) ~ 2009年1月25日(日)
東博のお正月といえば、新年の干支にちなんだ企画展示が恒例となっています。2009年の展示では、美術のなかで丑(牛)がどのように表され、そこに人々のどのような思いや祈りを読みとくことができるのか、ご案内いたします。
「小袖 茶綸子地四季耕作風景模様(こそで ちゃりんずじしきこうさくふうけいもよう)」には、田植え、稲刈りなど四季折々の農作業風景が表現されてい ます。その中央にいる黒い牛にご注目ください。唐鋤(からすき)をひいて田を耕していることから、これが春の風景であるとわかります。実際、日本や東洋の美術のなかで、牛耕は春の訪れ、ひいては五穀豊穣の吉祥として、たいへん好まれた意匠です。会場では小袖の近くに、同じく牛耕の意匠を含む狩野探幽の「四季耕作図屏風」を並べます。豊かな実りをもたらす牛の姿を、ぜひ見比べてみてください。
作品に描かれた牛は、なにも農耕用に限りません。重要文化財「駿牛図巻断簡(しゅんぎゅうずかんだんかん)」は、車を引くための牛を水墨で描いた秀作で す。わが国で乗用の動物は馬が普通でしたが、貴族は優雅な牛車に乗って移動しました。車を引く牛の作品が増えていく背景には、富と身分の象徴としての牛車の定着がうかがえます。
国外でも牛は身近な動物として、古くから作品に表されてきました。例えば、ベトナムの「五彩水牛文大皿(ごさいすいぎゅうもんおおざら)」の見込みに は、大きな水牛がキュビスムのを思わせる手法で表現されています。自由な表現手法からは、ただの家畜として水牛を描いたのではなく、牛の悠然とした存在感 へのあこがれや親しみを感じ取ることができるでしょう。 この展示を通して、人が牛に託した五穀豊穣をはじめとする思いをお楽しみいただければ幸いです。五穀に限らず、皆様にとってこの丑年が実り豊かな年でありますように。