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仏像 一木にこめられた祈り

  • 『国宝 十一面観音菩薩立像 平安時代・9世紀 滋賀・向源寺蔵(渡岸寺観音堂所在) [展示期間:2006年11月7日(火)~12月3日(日)]』の画像

    国宝 十一面観音菩薩立像 平安時代・9世紀 滋賀・向源寺蔵(渡岸寺観音堂所在) [展示期間:2006年11月7日(火)~12月3日(日)]

    平成館 特別展示室
    2006年10月3日(火) ~ 2006年12月3日(日)

     奈良から平安時代初期の檀像、一木彫、鉈彫像と江戸時代の円空・木喰の代表作を通して、日本彫刻の底流に流れる一木彫の伝統をクローズアップします。寺外初公開となる滋賀・渡岸寺観音堂の十一面観音菩薩立像(国宝 向源寺蔵、2006年11月7日~12月3日展示)をはじめ、一木彫の名品が一堂に集います。

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2006年11月30日(木)、入場者が30万人に達しました。

開催概要
会  期 2006年10月3日(火)~12月3日(日)
会  場 東京国立博物館 平成館 (上野公園)
開館時間 9:30~17:00 (毎週金曜日および2006年10月31日(火)~11月5日(日)は20:00まで開館)
2006年11月28日(火)~12月3日(日)は18:00まで開館します(12月1日(金)は20:00まで開館)。
入館は閉館の30分前まで
※時間帯ごとの会場状況についてはこちら
休館日 月曜日(ただし2006年10月9日(月・祝)は開館、翌10日(火)は休館)
観覧料金 一般1500円(1200円/1100円)、大学生・高校生900円(700円/600円)
中学生以下無料
( )内は前売り/20名以上の団体料金
障害者とその介護者一名は無料です。入館の際に障害者手帳などをご提示ください。
「前・後期券」2000円を前売り期間中に限り販売いたします。会期の前期(2006/10/3~11/5)・後期(2006/11/7~12/3)に各1回づつご観覧いただける、お得なチケットです。
前売券および前・後期券は、電子チケットぴあ、ローソンチケット、JR東日本の主なみどりの窓口・びゅうプラザ、ファミリーマート、サンクス、セブンイレブン、JTB、イープラス、CNプレイガイドおよび東京国立博物館 正門観覧券売場(開館日のみ)にて、10月2日(月)まで発売。
東京国立博物館キャンパスメンバーズ会員の学生の方は、当日券を800円(100円割引)でお求めいただけます。正門観覧券売場(窓口)にて、キャンパスメンバーズ会員の学生であることを申し出、学生証をご提示下さい。
特別展「仏像 一木にこめられた祈り」会期終了後の2006年12月5日(火)~24日(日)まで、本特別展半券を当館正門 観覧券売場にてご提示いただければ、当館平常展を半額の割引料金でご覧いただけます。詳しくはこちら
交  通 JR上野駅公園口・鶯谷駅より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線 上野駅 、千代田線 根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
主  催 東京国立博物館、読売新聞社
後 援 文化庁、日本テレビ放送網
協 賛 大日本インキ化学工業
協 力 日本香堂、エーエス
お問い合わせ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
展覧会ホームページ http://butsuzo.jp/
展覧会ホームページは会期終了時をもって終了いたしました。
同時開催
一木彫ができるまで
平成館1階 ガイダンスルーム 2006年10月3日(火)~12月3日(日)
木彫像の制作工程模型と一木彫像で使用される樹種のサンプルを展示します。また、模型を制作していただいた東京芸術大学学生ボランティアのギャラリートークも行います。
関連事業
連続講座「木彫」
平成館 大講堂 2006年10月13日(金)~2006年10月15日(日) 受付終了
木彫について幅広い視点から考える、3日間の連続講座です。事前申込制。
申込締切 2006年8月31日(木)必着
みうらじゅん・いとうせいこう仏像トーク
平成館 大講堂 2006年10月7日(土) 15:00~16:30 受付終了
「見仏記」でおなじみのみうらじゅん、いとうせいこうによる仏像トークショーです。展覧会に出展される仏像から、二人の思い出の仏像まで、熱く語ります。
落語会「落語の仏」
平成館 大講堂 2006年10月20日(金) 17:30~18:30 受付終了
庶民生活と仏像の関わりにふれる演目をお楽しみください。
「埋もれ木」上映会
平成館 大講堂 2006年11月2日(木)、3日(金・祝)、5日(日)
11:00~12:25、13:00~14:25、15:00~16:25、17:00~18:25   受付終了
映画「埋もれ木」を上映します。火山噴火によって立ち木のまま埋もれた古代の森「埋もれ木」をテーマに、木の神秘性に迫ります。
講演会&上映会「湖北の観音様」
平成館 大講堂 2006年11月15日(水)、30日(木) 13:00~15:00  受付終了
滋賀・高月町立観音の里歴史民俗資料館学芸員 佐々木悦也 氏を講師に講演会を行います。映画「古墳と観音の里 高月」も上映します。
展覧会の構成と主な展示作品
第1章 檀像の世界
 インドの伝説では、世界で初めての仏像はインド産の白檀(びゃくだん)で造られたとされています。白檀は木目が緻密で美しく、芳香を放つことから仏像の材として珍重されていました。幹の直径が30cm程度にしかならないため、小さな像しか作れませんが、材の特色を生かして表面に彩色をせず、細かな彫りをするのが特色です。

中国でも唐時代にインド風の小さな檀像(だんぞう)が流行しましたが、中国では白檀が自生しないため、「栢木(はくぼく)」で代用する考えが出されました。日本では、奈良時代から平安時代初期にかけて、「栢木」をカヤとみなし、カヤによる代用檀像が流行しました。カヤは針葉樹で、木目がつみ、木肌も少し黄味がかった白色で美しく、良い香りがする木です。檀像の緻密で鋭い彫りをご覧ください。
十一面観音菩薩立像   重要文化財 十一面観音菩薩立像
唐時代・7世紀 像高42.1cm
東京国立博物館蔵


 大化改新で有名な藤原鎌足(614~669)の長男・定恵(次男は藤原不比等)が唐から持ち帰った可能性が高い像です。きわめてインド的な風貌に注目してください。頭部上方の菩薩面から足の裏に伸びるほぞまで、白檀の一木で作られた典型的な檀像の十一面観音像です。
十一面観音菩薩立像   重要文化財 十一面観音菩薩立像
奈良~平安時代・8~9世紀 像高45.5cm
京都・海住山寺蔵


 頭上の面から台座の蓮肉(れんにく)まで木目のきめ細かな針葉樹の一木から造る典型的な檀像様の仏像です。作風は全体に伸びやかで、腰を少し曲げることで生じるわずかな薄い衣の動きが自然な質感で表わされています。また、明確に刻まれた切れ長の眉や眼、口端をくぼめて微笑む端正な唇の表現にも特色があります。
第2章 一木彫の世紀
 日本の仏像の歴史の中で、8世紀後半から9世紀前半にかけては、一木彫の名品が数多く造られた魅力的な時代です。こうした状況を生む大きな要因となったのが、中国からもたらされた檀像と白檀の代用材「栢木」による檀像の概念であったと考えられます。日本人は、中国からもたらされた檀像の緻密な造形世界に魅せられつつ、仏像の材料としての木の素晴らしさに目覚めていったに違いありません。

その一方、日本では古来、木は神や霊が宿る依り代(よりしろ)として信仰されてきました。中国からもたらされた檀像と日本古来の木の信仰が融合し、一木彫成立の基盤が形成されたと思われます。

ここでは、この一木彫の世紀に造られた名品の数々を通して、その魅力や多彩な造形世界をご覧いただきます。
十一面観音菩薩立像   国宝 十一面観音菩薩立像
平安時代・9世紀 像高194.0cm
滋賀・向源寺蔵(渡岸寺観音堂所在)
[展示期間:2006年11月7日(火)~12月3日(日)]


 瞑想するかのような慈悲深い表情、ふくよかな胸や腹の肉付け、腰をひねって立つすらりとした肢体などその類まれな美しさから、多くの人々を魅了してきた像です。

顔の脇、頭上や後頭部に10の面を大きく表す姿は非現実的ですが、それをまったく違和感なく、美しい調和の中にまとめあげています。柔軟な肉体や衣の薄く柔らかな質感表現も見事です。すべて針葉樹の一材から彫り出していますが、破綻がなく、仏師の高度な技術がうかがえます。
菩薩半跏像(伝如意輪観音)   国宝 菩薩半跏像(伝如意輪観音)
奈良~平安時代・8~9世紀 像高88.2cm
京都・宝菩提院願徳寺蔵
[展示期間:2006年10月3日(火)~11月5日(日)]


 肉体とそれを覆う衣、そこにできる皺(しわ)を完璧にとらえた一木彫の名作です。瞳に黒い珠を嵌め、二重瞼で切れ長な眼の表情は異国的で、中国・唐代彫刻との強い関連性がうかがえるでしょう。

宝菩提院願徳寺はかつて長岡京の北域(向日市寺戸町)にありました。後に荒廃したため、この像をはじめとする諸仏は花の寺として知られる勝持寺(京都市西京区大原野所在)に一時移動安置されていましたが、近年、勝持寺の近くに復興されています。
第3章 鉈彫(なたぼり)
 平安時代の10世紀後半から12世紀頃を中心に、表面にノミ目をのこす不思議な一木彫像が流行しました。これらの像をいま鉈彫(なたぼり)と呼んでいます。実際には鉈による裁断面を残すのではなく、表現がいかにも荒いのでこう呼ばれます。材はカツラやケヤキなどが多く、その多くは神や霊が宿る神木、霊木であったと考えられます。鉈彫は、霊木から次第に仏像が現れてくるプロセスが示されていると考えられます。鉈彫は京都や奈良の新旧の都や四国・九州では今のところ発見されておらず、関東から東北地方に多いのが特色です。
中尊 薬師如来坐像 中尊 薬師如来坐像   重要文化財 薬師三尊像
平安時代・10世紀 像高中尊116.6cm、左脇侍123.3cm、右脇侍123.9cm
神奈川・宝城坊蔵


 鉈彫初期の代表的な作例。三尊ともカツラの一木で造られています。薬師如来は顔や胸を滑らかに仕上げ、螺髪(らほつ)を精細に刻み出していますが、それ以外は台座をふくめてノミ目が同じ方向に整然と刻まれています。一方、両脇侍は顔や胸、宝冠、下げた手の指先にいたるまで全身にノミ痕を残しています。三尊とも白木のまま彩色をせず、目、眉、ヒゲ、菩薩の胸飾などが墨で描かれています。

宝城坊のある丹沢山塊の日向山の中腹には、かつて霊山寺という山中寺院がありました。この三尊像はその創建時からの本尊であったのでしょう。
十一面観音菩薩立像   重要文化財 十一面観音菩薩立像
平安時代・11世紀 像高180・7cm
神奈川・弘明寺蔵 


 鉈彫初期の代表的な像。背面は平らに仕上げ、正面からみえる部分に、意図的に横縞状のノミ痕を留めています。全身は白木のままで、本面の唇と化仏の唇にわずかに朱が残り、眉、目、ヒゲ、胸飾を墨で描いていることからこれで完成させたことも明らかです。表現が穏やかであることから11世紀の作と推定されますが、頭の十一面から足先、手先、天衣、左手の水瓶に至るまで1本のケヤキから造り、内刳り(うちぐり)もないことから、平安時代初期の一木彫刻の古い伝統に基づいて制作されたことがわかります。
第4章 円空と木喰
 円空(1632-1695)と木喰(1718?-1810)はしばしば並び称されますが、同年代の人ではありません。両者に共通するのは、日本全国を廻って大量の仏像を造ったこと、専門の仏師ではなく、庶民に親しまれる独特の造形を創造したことです。円空、木喰の像は、ノミだけで仏像を造り上げ、飾りは一切ほどこしていません。江戸時代の村の人々の祈りに寄り添った像と言えるでしょう。

ただし、その作風は対照的で、円空の像はナタで割った木材の切断面がそのまま残され、彫刻面のノミ跡もごつごつしたままです。木喰の像は、表面をなめらかに仕上げ、造形に丸みが目立ちます。顔立ちはしっかりと彫られ、ことに微笑むような表情の像が多いことが特徴です。
十一面観音菩薩立像・善女龍王立像・善財童子立像   十一面観音菩薩立像・善女龍王立像・善財童子立像
円空作
江戸時代・17世紀 像高 中尊221.2cm、善女龍王立像175.6cm、善財童子立像174.6cm
岐阜・高賀神社蔵


 岐阜県関市洞戸に聳える霊峰高賀山、円空はこの地を3度訪れ、現在29体の円空仏が伝わっています。1本の丸太を割って3体の像を造っており、各像の背面は彫刻していないので、3体を重ねれば丸太の形が復元できます。善女龍王は、雨を降らせ五穀豊穣をもたらします。円空は高賀神社で実際に雨乞いを行なっています。円空仏の最高傑作のひとつ、善財童子像の背の高い細身の身体は、上へ上へと伸びる木の生命力を感じさせ、尖った頭頂、無垢な表情とあいまってことに印象深い像です。
三十三観音菩薩像 および 行基菩薩・大黒天像   三十三観音菩薩像 および 行基菩薩・大黒天像
木喰作
江戸時代・1803年 像高 如意輪観音244.0cm、他各75.0cm前後、行基菩薩・大黒天像各120.0cm
新潟・小栗山木喰観音堂蔵


 木喰は享和3年(1803)から2年半、越後に滞在して230体ほどの像を造りました。86歳の木喰は、享和3年8月1日から24日までの間に、小栗山観音堂(小千谷市)の中尊如意輪観音像と32体の観音像、行基菩薩・大黒天像を造立。これらは公孫樹(いちょう)の大木から造ったと伝えられます。翌年6月9日から7月13日には宝生寺(長岡市)に三十三観音像(高90cm前後)、引き続き7月14日から 8月15日は金毘羅堂(長岡市)に三十四観音像(高65~75cm)を完成させました。この3つの堂あわせて百観音、すなわち西国・坂東・秩父の観音霊場を再現したのです。