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賛助会費支出事業及び購入作品について

平成25年度 賛助会費購入作品

重要美術品 線刻千手観音鏡像(せんこくせんじゅかんのんきょうぞう)  平安時代・12世紀

重要美術品 線刻千手観音鏡像「鏡像(きょうぞう)」とは、銅鏡の表に仏や神の像を線刻などで表し、礼拝の対象としたもので、10世紀頃より制作されました。鏡像の発生については、密教における観想(かんそう、円の中に仏をイメージする)や、ご神体とされることの多い鏡に、本地仏(ほんじぶつ)を表したとする本地垂迹思想(ほんじすいじゃくしそう、日本の神々は、それぞれに対応する特定の仏=本地仏が神に姿を変えて現れたとする)との関連など、諸説があります。やがて銅鏡に擬した銅板に像を表すものも現れ、像も打ち出しや別製鋳造(ちゅうぞう)で立体化していき、中世以降はそれが主流となります(「懸仏(かけぼとけ)」)。
この鏡像は、円形の銅板の表に、蹴彫(けりぼり、くさび状の点線を連ねて線刻する技法)で千手観音坐像を表したもの。観音は柔らかな線描ながら、堂々とした像容で、平安後期仏画の白描図像(はくびょうずぞう、仏教尊像を墨線のみで描いた図像)を思わせます。三角を連ねた蹴彫といい、いかにも平安時代後期の表現と様式を示しています。上部2箇所には、懸けるための紐を通す穴が空けられていますが、これも平安時代後期の鏡像によく見られるものです。平安時代の千手観音の鏡像は10に満たず、その中でも比較的大型の部類に属し、なおかつ出来映えも優れた遺例として貴重です。昭和24年(1949)重要美術品に認定されています。

 

帯 銀地花卉段文様モール錦(おび ぎんじかきだんもんようモールにしき) イラン サファヴィー朝時代・17~18世紀

帯 銀地花卉段文様モール錦金銀を薄くのばし細く裁断した金属糸を、絹糸を芯にしてコイル状に巻いたモール糸を織りこんだ錦のことをモールと称します。モールはインド王朝の「ムガール」が訛ったといわれますが、16世紀ころからインドだけではなくペルシャでも盛んに用いられるようになりました。中でも、経糸に細い絹糸を用い、緯糸に織幅を通しでモール糸を織りいれ、さらに、赤・青・白・茶などに染めた絹糸を織り混ぜて美しい花唐草文様を織りだしたモール錦が、サファヴィー朝ペルシャ、あるいはインド・ムガール朝の宮廷工房で織られ、貴族たちのコートや帯などに使用されました。
大航海時代を経て、オランダやイギリスが東インド会社を設立し、インドを拠点にアジアの文物を運ぶようになりますと、インドやペルシャで制作されたモール錦もヨーロッパへ運ばれ、ヨーロッパの人々の間で人気を博するようになりました。オランダ船は日本にもモール錦を舶載し、茶人たちの間で「莫臥爾」「莫臥人」「毛宇留」といった当て字をはめて愛好されました。
このモール錦は、中央部分に2種類の花卉文様を段状に織り出し、両端にはピンクとブルーの花が咲いた立木風の花が2本並んだ文様が織り出されています。縦に半分に折った跡が残っていることから、腰に巻いて帯として使用されたと考えられます。16世紀から17世紀にかけてインドやペルシャで制作された帯と比較すると幅が狭く、文様はペルシャ風にシャープで整理されています。そのような形態から、17世紀末から18世紀前半にかけて、サファヴィー朝ペルシャの宮廷工房で製作されたものと考えられます。

 

帯 銀地花卉鱗文様モール錦(おび ぎんじかきうろこもんようモールにしき) ポーランド 18世紀

帯 銀地花卉鱗文様モール錦オランダやイギリスの東インド会社がインドからヨーロッパへと運んできたモール錦(モール錦については「帯 銀地花卉段文様モール錦」の解説を参照)は、ヨーロッパで絶大な人気を誇りました。インドやペルシャの宮廷工房で織られる最高品質のものが、人気が高かったことはもちろんですが、多く生産することはできません。そこで、18世紀後半になると、ポーランドでペルシャ産のモール錦を模倣した織物が織られるようになり、ポロネーズと称されるようになりました。
ポロネーズは、一見、ペルシャ産のモール錦に見られるものと同じようなデザイン構成をしています。縦に長い縁にはボーダー文様があり、その縁には花唐草文様がデザインされています。また、帯の両端には立木風の花文様が2つ並んで織り出されます。この作品もそのようなペルシャ様式のデザインを採用していますが、両端の立木風の花文様に波形の囲いがあったり、主文様が鱗文様であったり、ペルシャ産のものには見られない特徴が見られます。また、織物が織り終わる織り留めの部分に工房の名称と思われる銘が織り出されています。工房名を織り出すのは、ポロネーズの特徴の1つとなっています。
以上より、本品もポーランドで織られたものでしょう。織りは詰まってとてもしっかりとしており、緯糸に織り入れられているモール糸も損傷なく銀の美しい輝きを保っています。ポロネーズの中でも特に品質が高く品格あるデザインの優品です。

 

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