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博物館でお花見を 関連企画 東博句会「花見で一句」 入選発表

博物館でお花見を 関連企画
東博句会「花見で一句」 入選発表
 「博物館でお花見を」(2010年3月25日~4月11日) 関連企画 東博句会「花見で一句」にて桜をテーマにした俳句を募集しました。期間中、館内投句箱、はがき、メールにて受付けましたところ1146句の応募がありました。ここに一席1名、二席2名、三席3名、秀作11名、佳作38名を発表いたします。なお、一席から秀作は東京国立博物館8-9月号(7月末発行)にも掲載いたします。入選された皆様には記念品をお送りいたします(7月末発送予定)。たくさんのご応募ありがとうございました。
 選考総評
 入選作品
一席  
我がための桜吹雪に杖を止む   長岡貝郎さん
  (評) 杖をついているのは、ご高齢のせいだろうか。一人の散歩に、一陣の桜吹雪。それを「我がための」と断定したところに、深い充足感がある。充足感はまた歩んできた人生そのものに対する充足感のようにも感じられる。
二席  
花を見ていま花のこと考えず   西田克憲さん
  (評) 見ていないときは桜のことが気がかりでしかたがないのに、桜のもとへ来ると、頭がからっぽになってしまう。もう何も考えず、ただただ満喫。これぞ至福のとき。
   
一面は唇噛む阿修羅夕桜   藤原若菜さん
  (評) 昨年の阿修羅展を思えば、博物館への挨拶も兼ねた巧みな句。阿修羅像を見ての感慨が、相応しい季語を得て完成した。季語はこのように、時をかけて授かることがある。
三席  
見上ぐれば桜と雲の昼ごはん   内田恵子さん
  (評) 長閑さが、力を抜いた一句の調子にも表れている。雲もきっと、満開の桜のような、ぽっかりと丸い形。
   
無理をして桜の頃に来いと云う   井上頼男さん
  (評) 名物の桜なのだろう。話し言葉がそのまま一句になった。「無理をして」が、具体的でリアルだ。
   
さくら咲くことばに水に耳もとに   風間晶さん
  (評) ことば・水・耳もと、という三つの言葉に何の脈絡もないところが面白い。わかりにくいが、不思議な感覚。
秀作  
花月夜車座大いなる楕円   西田克憲さん
   
夜桜の蕾のなかのあしたかな   藤原若菜さん
   
気ごころのだんだん知れて花筵   鈴木順子さん
   
ポンポンと船出てゆけり初桜   鈴木桂吾さん
   
ゆらゆらと嬰のおすわり花莚   石井京子さん
   
音あらばハープ奏でて散る桜   柄澤寿々子さん
   
弘子逝き展宏もなく桜かな   吉田武峰さん
   
存へて白寿の花見しようとは   井上頼男さん
   
花冷えや昼の薬はポケットに   岩崎楽典さん
   
初花の風には散らぬ力満つ    藤田荘二さん
   
みな花の方に揃いてお弁当   丹羽ひろ子さん
佳作  
恋ひとつ捨てて来た日の桜かな   浅沼小葦さん
   
逝く母に土産のようなさくら花   網代千純さん
   
行くあてのなきむなしさに朝桜   新川美智子さん
   
花冷えや踏石高き躙り口   石黒興平さん
   
玉堂の終の住み処や山ざくら   井上頼男さん
   
手に伝ふ雨のしづくや糸ざくら   潮伸子さん
   
花冷えや天文学から入る講義   江本路代さん
   
遠目にも多摩対岸の花明かり   大槻卓さん
   
大鷹のまなざしはるか花の雲    加藤啓子さん
   
一輪が咲き一輪を呼ぶ桜   久保ゆう子さん
   
寝袋に席取りをして花の山   佐伯久子さん
   
母ときに子の名忘れ桜散る   佐瀬チエ子さん
   
鳥語降りなお静かなり花の庵   佐藤静江さん
   
コロッケを片手に谷中花ぐもり   佐藤とみおさん
   
花片の二ひら三ひら躙り口   篠崎知惠子さん
   
乳たりて欠伸一つや花の宴   関戸信治さん
   
リュック背に桜まつりの野点かな   嶽住江さん
   
桜見て俺も一丁咲かせるか   田中俊史さん
   
花曇り左右にアジア諸語聞こえ   樽箭野彗さん
   
母ゐれば肩抱き締めん花の下   千原道子さん
   
イヤリングはづしてよりの花疲れ   寺部京子さん
   
満開にもう後少し花の冷   丹羽ひろ子さん
   
花七日七日酒断つ桜守   針ヶ谷里三さん
   
SLの煙まぶしき朝ざくら   針ヶ谷マサ子さん
   
カンツォーネその夜重たき桜かな   広瀬ひろ子さん
   
夕桜うすくれないの火の如し   福永千晴さん
   
桜咲く朝日がはじめにあたる木に   藤田荘二さん
   
夜桜の万の眼に居竦まる   松居一江さん
   
夕桜今来た道を帰ろうよ   松永京子さん
   
桜咲くわが青春の角帽子   吉村峰隆さん
   
ジャンパーに風はらませて花の道   渡辺和男さん
   
背信を知りつつふたりさくらみる   阿古潤子さん
   
春の夜の夢の中まで花吹雪   三木谷美和さん
   
ファックスをして校了や花吹雪   植田彩芳子さん
   
ひとくぎりつけて生きるか花のあと   大宅克彦さん
   
糸桜傘にして待つ夕の雨   中川郁江さん
   
花人の句碑に出会えば書き写し   箱守田鶴さん
   
富士桜真白の富士を眼裏に   澁谷洋介さん
選考 正木ゆう子氏(俳人)
総評  雪月花と一口に言うように、雪・月・花は古来詩歌の最も重要なテーマでした。私の尊敬する俳人三橋敏雄さんは、これに鶯と時鳥を加えた五つの季語を詠んだ代表句を、俳人たるもの持つべきであると、常々おっしゃっていたものです。中でも花すなわち桜は最も重要な題材。今回は多くの方がこのテーマに挑戦してくださいました。
入選句を見るとおわかりのように、一句の良さは実に様々です。同じ物差しでは比べられないくらいです。その中で一席には、派手ではないけれど、深くしみじみとした句を選ばせていただきました。さりげない句、凝った句、面白い句、不思議な句。俳句って多様で面白い!と思った方は、どうぞこれからますます俳句に深入りしてくださいね。
日程
2010年3月24日(水) ~ 2010年4月11日(日)