重要文化財 夏秋草図屏風 酒井抱一筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵
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琳派(りんぱ)というと、美しい絵の具とデザイン化されたモチーフの組み合わせによる、明るく華やかな作品を思い浮かべることでしょう。俵屋宗達(たわらやそうたつ)、尾形光琳(おがたこうりん)、そしてこの作品を描いた酒井抱一(さかいほういつ)は、時代を異にしていますが、作品を通じて一つの流れに連なり、琳派という流派を形成していました。抱一はその流れを強く意識して、宗達、光琳の作品を写したり、その翻案を試みています。この作品もそのような意識の中から生まれたのですが、作品の表現に直接的なつながり見出すことが難しいほど作品の印象は異なっています。
宗達、光琳が金の輝きに満ちた作品を得意としたのに対し、抱一は銀の冴えた光に独自の美意識を開いていきました。その代表作が「夏秋草図屏風」です。絵画の世界は、長い間京の都を中心に展開してきました。江戸の地で新たな美の世界が展開するのは18世紀後半になってからです。江戸の地で誕生した鮮やかな浮世絵の錦絵にも、
「紅嫌(べにぎら)い」と呼ばれる、墨を主として色彩を抑えながら精緻で洗練された華やかさを表現する作品が登場します。「いき」を好んだ江戸の人々の美意識は、さっぱりとしながらも緊張感をはらんだものでした。外に露わにはしない心の内が隠されているような。その奥に人の情が潜んでいるようにも感じられます。
雨に打たれ重くたれる青薄(すすき)。細く伸びる葉の重なりと表裏で塗り分けられた緑の色感に、繊細さと冷たさ、時間の止まったような不安感が感じられます。葉の間から透かして見える真っ白な鉄砲百合、赤い仙翁花(せんのうげ)。薄に絡みつく淡い紅色の昼顔、一本だけ伸びる女郎花(おみなえし)。上方に金泥の細い線で流れを描いた鮮やかな群青(ぐんじょう)のにわか雨による水の流れは、空にあるのかと思える不思議な配置。ここには、宗達、光琳の絢爛(けんらん)なイメージとは異なる世界があります。
この作品は光琳の「風神雷神図屏風」の裏に描かれていました。「風神」の裏に、風に吹き上げられる蔦や葛を描いた「秋草」を配し、「夏草」は、にわか雨をもたらす「雷神」の裏に描かれています。
自らの隠棲の居を雨華庵(うげあん)と名付けた抱一が、光琳を追って描いた作品です。
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